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静岡地方裁判所沼津支部 昭和52年(ワ)407号 判決 1985年3月27日

原告 株式会社トーメン

右代表者代表取締役 小沢正吉

右訴訟代理人弁護士 橋本基一

同 杉原正芳

同 高橋剛

橋本基一訴訟復代理人弁護士 室井優

被告 更生会社加藤車体工業株式会社 管財人 舞敏方

右訴訟代理人弁護士 久保利英明

同 古曳正夫

同 本林徹

同 福田浩

同 飯田隆

同 小林啓文

同 相原亮介

主文

一  原告が更生会社加藤車体工業株式会社に対し、金一億〇九〇六万七二一二円の更生担保権及び同額の議決権を有することを確定する。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用はこれを一〇分し、その三を被告の負担とし、その余を原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  原告が更生会社加藤車体工業株式会社に対し、金三億五三七六万七一七八円の更生担保権及び金二億七五五一万〇六四五円の議決権を有することを確定する。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1(一)  原告は昭和五〇年四月四日訴外加藤車体工業株式会社(以下「加藤車体工業(株)」と表示し、そのほかもこれに準ずる。)との間で、同会社が原告に対して現在及び将来負担する債務の履行を確保するため、左記条件で、駿東郡長泉町納米里、同町下土狩所在の不動産について根抵当権設定契約を締結し、同年五月三一日、右根抵当権の追加担保として、右と同一条件で、別紙物件目録記載の各物件(以下その一を「第一工場財団」、二を「第二工場財団」という。)について根抵当権設定契約を締結した。

(1) 極度額 四億円

(2) 被担保債権の範囲

(イ) 債権者債務者間の売買取引、売買委託取引、請負取引、加工委託取引、寄託取引、委任取引、運送取引、輸出入義務委託取引、消費貸借取引、立替払委託取引、交換取引、保託委託取引、保証取引、使用貸借取引、賃貸借取引、商品供給取引により生ずる一切の債権

(ロ) 債権者が債務者又は第三者から取得する手形上又は小切手上の債権

(3) 債務者  加藤車体工業(株)

(4) 確定期日 定めない

(5) 左記事由のいずれかが生じたときは、債務者は債権者に対する一切の債務につき期限の利益を失い、直ちに債務残高全額を債権者に弁済しなければならない。

(イ)、(ロ) 省略。

(ハ) 債務者が支払停止、営業停止、解散をなし、又は債務者につき破産、和議、会社整理、会社更生の申立てのあったとき。

(ニ)ないし(ヘ) 省略。

(6) 債務者は、債務の履行を遅滞したときは、日歩八銭の割合の遅延損害金を債権者に支払うものとする。

(二) 原告は同年一一月四日加藤車体工業(株)との間で、同年四月四日に設定した駿東郡長泉町納米里、同町下土狩所在の不動産を根抵当権の目的物件から除外することを約した。その結果、原告が根抵当権を有するのは追加担保分の第一、第二工場財団のみとなった。

2(一)  原告は加藤車体工業(株)に対し、

(1) 昭和五〇年七月三一日、トラックパーツ二三〇セットを代金五四六二万五〇〇〇円、支払日昭和五一年一月一五日に内金二三七五万円、同年一月三一日に残金三〇八七万五〇〇〇円の約定で売り渡し、

(2) 昭和五〇年九月九日、トラックパーツ三六一セットを代金七九四七万八四八二円、支払日昭和五一年二月一〇日の約定で売り渡し、

(3) 昭和五〇年九月二六日、トラックパーツ三四一セットを代金七五〇七万五二四二円、支払日昭和五一年二月二日の約定で売り渡し、

(4) 昭和五〇年一〇月三日、トラックパーツ三一〇セットを代金六八二五万〇二二〇円、支払日昭和五一年三月二日の約定で売り渡した。

以上の代金合計は二億七七四二万八九四四円である。

(二) 原告は加藤車体工業(株)から右売買代金元本の支払のため、別紙約束手形目録(一)記載の約束手形一一通の振出し交付を受けたが、昭和五一年一月三一日、その支払方法を次のとおり変更した。

(1) 昭和五一年一月三一日 金一〇〇〇万円

(2) 同年二月二九日 金一〇〇〇万円

(3) 同年三月三一日 金一〇〇〇万円

(4) 同年四月三〇日 金二二〇〇万円

(5) 同年五月三一日 金二〇〇〇万円

(6) 同年六月三〇日 金二〇〇〇万円

(7) 同年七月三一日 金二〇〇〇万円

(8) 同年八月三一日 金二〇〇〇万円

(9) 同年九月三〇日 金二〇〇〇万円

(10) 同年一〇月三一日 金二〇〇〇万円

(11) 同年一一月三〇日 金二〇〇〇万円

(12) 同年一二月三一日 金二〇〇〇万円

(13) 昭和五二年一月三一日 金二〇〇〇万円

(14) 同年二月二八日 金二〇〇〇万円

(15) 同年三月三一日 金二五四二万八九四四円

(三) 原告は右同日加藤車体工業(株)との間で、支払方法の変更に伴う利息として、残代金につき同日以降年一三・二パーセントの割合による金員の支払を受けることを約した。

(四) 加藤車体工業(株)は原告に対し、昭和五一年一月三一日支払分の金一〇〇〇万円と、同年二月二九日支払分の金一〇〇〇万円の合計金二〇〇〇万円を支払ったのみで、売買代金残元金二億五七四二万八九四四円及び右利息金の支払をしない。

(五) 原告は昭和五一年一月三一日加藤車体工業(株)から、別紙約束手形目録(一)記載の手形と交換に、別紙約束手形目録(二)記載の約束手形一五通の振出し交付を受け、これを所持している。

(六) 原告は、別紙約束手形目録(二)記載の(3)ないし(15)の各手形を各支払期日に各支払場所に呈示したが、いずれも支払を拒絶された。

3(一)  加藤車体工業(株)は訴外東洋金属工業(株)と共同して、別紙約束手形目録(三)記載の約束手形五通を、原告に対して振り出し交付した。

(二) 別紙約束手形目録(三)記載の約束手形にはいずれも、振出人東洋金属工業(株)、加藤車体工業(株)、受取人原告と連続した記載があり、原告は右手形をいずれも現に所持している。

(三) 原告は、右手形をいずれも支払呈示期間内に支払場所に呈示したが、支払を拒絶された。

4  加藤車体工業(株)は昭和五一年三月二九日、静岡地方裁判所沼津支部に対し会社更生法の適用を申請し、同年四月一六日、同裁判所支部において更生手続開始決定がなされ、同日、被告が同社の管財人に就任し、同月二一日その旨の登記がなされた。

5  加藤車体工業(株)は、右会社更生法の適用申請により、昭和五〇年四月四日締結の根抵当権設定契約の約定(前記1(一)(5))に基づき、原告に対する一切の債務について期限の利益を失い、直ちに全額を原告に返済すべきところこれを遅延し、同契約の約定(前記1(一)(6))に基づき、日歩八銭の割合による遅延損害金を原告に支払うべき債務を負担した。

6(一)  原告は、債権届出期間内の昭和五一年六月二八日、静岡地方裁判所沼津支部に対して、次のとおり更生担保権及び議決権の届出をした。

(1) 更生担保権

(イ) 売掛金残代金 金二億五七四二万八九四四円

前記2(一)、(二)、(四)のとおり。

(ロ) 利息金 金四二九万二七九三円

前記2(三)、(四)のとおり。ただし、昭和五一年二月一日から同年三月二八日までの分。

(ハ) 約束手形金 金一〇五七万二八八七円

前記3のとおり。

(ニ) 損害金 金三二一万六〇二一円

前記4のとおり。ただし、会社更生法適用申請の日の翌日である昭和五一年三月三〇日から同年四月一三日までの分。

(ホ) 損害金 金七八二五万六五三三円

前記4のとおり。ただし、昭和五一年四月一四日から翌年四月一三日までの一年分。

(2) 議決権の額 二億七五五一万〇六四五円

右(1)の(イ)から(ニ)までの合計額。

(二) 原告は、債権届出期間経過後の昭和五一年九月二四日、追加的債権の原因として、別紙約束手形目録(二)記載の(3)ないし(15)の約束手形金二億五七四二万八九四四円を更生担保権として届け出た。前記2のとおり、右約束手形は売掛金の支払のために振り出されたもので、請求の基礎に変更がないから、更生担保権者表に記載したのと異なる原因に変更することが許される。

7  昭和五二年一一月二日の債権調査期日において、被告は原告の更生担保権及び議決権に異議を述べ、全額を更生債権として認める旨述べた。前記6の(二)の約束手形金については、債権届出期間経過後の届出として異議を述べた。

8  よって、原告は、被告に対し、右更生担保権及び議決権の確定を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1(一)のうち、昭和五〇年四月四日根抵当権設定契約を締結したことは認め、その余の事実は否認する。

同1(二)の事実は認める。

2  同2(一)の事実は認める。

同2(二)のうち、別紙約束手形目録(一)記載の約束手形が売買代金元本の支払のために振り出されたことは否認し、その余の事実は認める。

同2(三)のうち、利息金支払の始期を昭和五一年一月三一日とする点は否認し、その余の事実は認める。

同2(四)、(五)の各事実は認める。

同2(六)の事実は知らない。

3  同3(一)ないし(三)の各事実は認める。

4  同4の事実は認める。

5  同5は争う。昭和五〇年四月四日の根抵当権設定契約は、同契約に基づく駿東郡長泉町納米里、同町下土狩所在の不動産の根抵当権登記を抹消するとともに、その効力を喪失したものであるから、右根抵当権登記抹消後である昭和五一年三月二九日の更生手続開始の申立てによって、原告主張の期限の利益喪失の効果を生ぜしめることはできない。

6  同6(一)の事実は認める。

同6(二)前段は否認し、後段は争う。原告主張の約束手形金債権については、正式の債権届書としては届け出られていない。

7  同7の事実は認める。

三  担保権目的物の評価の方法についての被告の主張

1  会社更生手続は、企業の再建を目的とするものであるから、更生会社の財産評定は、会社の事業を継続するものとしてしなければならない(会社更生法一七七条)。このような企業の継続価値を把握するには、更生会社が将来収益をあげ、その収益をもって債権者に弁済できるかどうかが重要なポイントである。そこで、この場合の財産評定は、企業の収益力に着目する必要があり、その手法としては収益還元法が最適であって、これを標準的な手法とすべきである。

2  被告は、本件の財産評定に当たり、我が国でただ一人、不動産鑑定士で更生管財人を歴任したことがあり、企業会計にも精通している大河内一雄に、企業の継続価値算定の資料とするための鑑定を依頼した。同人は、収益還元法並びに比較法等を用いて鑑定(大河内鑑定)している。

3  被告は、大河内鑑定に基づき、更生担保権者と話合いの上、右鑑定に上乗せ評価をして、以下のとおり第一、第二工場財団の財産評定をした。

第一工場財団

土地 九億六四五七万三九二〇円

建物 一億七二三二万四八二〇円

機械器具 一億二四四五万一九二一円

計 一二億六一三五万〇六六一円

第二工場財団

土地 七億二三九七万三四四〇円

建物 一億〇三四五万二五四五円

機械器具 一二六四万二〇〇〇円

計 八億四〇〇六万七九八五円

4  右のような経過によってなされた被告の財産評価は正当であり、何ら問題とされるべき点は存しない。

四  担保権目的物の評価の方法についての原告の主張

被告による更生会社の財産評価は、収益還元法という手法を用いることによって、極端に低額な評価となった。その低額な評価は、更生会社の利益を図り、更生担保権を切り捨てるためになされたものである。被告による財産評価が違法不当であることは、以下の各点から明らかである。

1  収益還元法において用いられる予想収益額は、経済情勢の変化により大きな影響を受けるとともに、予想者の主観を強く反映したものになる。またその資本還元率の決定とても、恣意的であって、合理的な根拠を有するものではない。それゆえ、健全な会社においてさえ、適正な予想収益額と資本還元率を設定することは不可能であり、ましてや、窮境に立ち至り信用を失墜し、極端に収益性が低下した状態にある更生会社においては、なおさら不可能である。

予想収益額について検証してみると、更生会社の昭和五三年五月から同五四年四月までの一年間の営業成績合計額は、

売上高 一四六億六五一二万八〇〇〇円

売上原価 一二九億六七四〇万二〇〇〇円

販売管理費 八億一七一七万六〇〇〇円

営業利益 八億八三七五万二〇〇〇円

であり、これを基に大河内鑑定と同様の操作をすると、収益価格は五九億九五九三万六〇〇〇円となる。ところが、大河内鑑定での予想収益額は二三億円とされていて、極端に低額である。

2  大河内鑑定で工場敷地の評価をする際に採用した取引事例は、いずれも、本件の工場敷地とは極端に規模、内容を異にしており、その結果、算出された土地比準価格は、低額に失している。また大河内鑑定では、公示地(高座郡寒川町一之宮三一九四番外)よりも、本件の工場敷地の方が優れているとするが、不合理である。

3  更生会社の財産のうち、既に売却処分されたものの売却価格をみると、いずれも被告の財産評定額を大きく上回っており、右評定額が不当に低いことがわかる。また、第二工場に隣接する宅地(海老名市柏ヶ谷字天谷原六〇〇番五二万五二五一・三九平方メートル)は、昭和四七年一一月に一平方メートル当り四万五四五五円で売買されたが、大河内鑑定によると、第二工場敷地は一平方メートル当り二万四〇〇〇円にとどまっている。

以上のとおり、被告の財産評定額は違法不当であり、適正な評価の手法としては、再調達価額法、収益還元法、公正市場価額法等の評価方法を総合的に用いて、客観的に公正な評価をすべきである。

右の方法によって適正な評価額とすべき額は、以下のとおりである。

第一工場財団

土地 一四億四六八六万〇八八〇円

建物 一億九七五六万九二三七円

機械器具 一億六八四四万〇七三三円

計 一八億一二八七万〇八五〇円

第二工場財団

土地 一〇億八五九六万〇一六〇円

建物 一億八八六四万三五五八円

機械器具 二〇三四万九四〇九円

計 一二億九四九五万三一二七円

第三証拠《省略》

理由

一  原告と加藤車体工業(株)との間で、昭和五〇年四月四日、根抵当権設定契約が締結されたことは当事者間で争いがない。同年五月三一日、右根抵当権の追加担保として、第一、第二工場財団について根抵当権設定契約が締結されたことは、《証拠省略》により、これを認めることができる。同年四月四日の前掲根抵当権設定契約の目的物件が昭和五〇年一一月四日に、共同担保の目的物から除外されたこと、並びに原告が後記更生手続開始当時少なくとも、昭和五〇年七月三一日から同年一〇月三日までのトラックパーツ売渡残代金として金二億五七四二万八九四四円の債権及び別紙約束手形目録、(三)記載合計一〇五七万二八八七円の約束手形金債権、以上合計金二億六八〇〇万一八三一円の債権を加藤車体工業(株)に対して有していたことは、当事者間で争いがない。

二  加藤車体工業(株)が昭和五一年三月二九日、静岡地方裁判所沼津支部に対して会社更生法の適用を申請し、同年四月一六日、同裁判所支部において更生手続開始決定がなされ、同日、被告が同社の管財人に就任したこと、原告が、債権届出期間内の昭和五一年六月二八日、同裁判所支部に対して請求原因6(一)に記載の更生担保権と議決権の届出をしたこと、昭和五二年一一月二日の債権調査期日において、被告が、原告の更生担保権と議決権に異議を述べ、全額を更生債権として認めたことは、当事者間で争いがない。

三  本件訴訟における実質的争点は、加藤車体工業(株)の第一、第二工場財団についての担保権目的価額の評定方法をいかになすべきかの点にある。そこで以下、この点について検討する。

四1  会社更生法一二四条の二及び一七七条による被告の財産評価は、《証拠省略》によれば、第一工場財団の土地九億六四五七万三九二〇円(一平方メートル当たり二万四〇〇〇円)、建物一億七二三二万四八二〇円、機械器具一億二四四五万一九二一円(合計一二億六一三五万〇六六一円)、第二工場財団の土地七億二三九七万三四四〇円(一平方メートル当たり二万四〇〇〇円)、建物一億〇三四五万二五四五円、機械器具一二六四万二〇〇〇円(合計八億四〇〇六万七九八五円)であることが認められる。

2  右のような評価をした被告の財産評価についての考え方は、《証拠省略》によれば、以下のようなものであることが認められる。

(一)  会社更生法によれば、管財人による会社財産の評価は、会社の事業を継続するものとしてしなければならない(同法一七七条)。事業を継続するものとしての会社の価値は、ゴーイング・コンサーン・バリュー(企業継続価値)と言われるもので、その会社の財産からどれだけの利益が上がるかということを基準にして評価するものである。そのためには、企業の予想収益を出し、それを資本還元して収益価値を求める収益還元法といわれる手法を用いることになる。

(二)  収益還元法を用いる場合、最も重要なのは、企業の収益力の把握である。破たんに瀕した企業の収益力を把握するのは困難であり、ある程度破たんに瀕した原因となっている状態を取り除き、正常な状況での経営の見通しがつくころまで待って、収益力を把握する。

(三)  そのために被告は、更生会社の一〇年間の収支計画を立てることにし、更生会社の各部門の責任者を集めて、資料を検討した。収支計画を立てていた昭和五二年当時、車体業界では、更生会社の外にも数社が倒産するなど厳しい経営状態であった。更生会社は、トラックを生産している大企業の下請的存在であるから、大企業が利益率の良い仕事を下請に発注せず、自ら生産するようになると、努力しても業績が伸びないという問題を抱えていた。しかも車体業界は、大企業四社の競合状態の下にあったから、どの企業の系列下に入るにしても、他の企業の注文を得られなくなるおそれがある一方、各企業の協力を取り付ける必要もあった。以上のような不安材料があるものの、従業員らの再建への意欲が強いので、被告としては、最低年間四パーセントの成長率を達成しようと考えた。これに基づいて作成した収支計画が別紙のとおりである。

(四)  被告は管財人経験者等の意見を聴き、大河内一雄に、財産評定の参考とすべき鑑定を依頼した。大河内鑑定の評価は、第一工場財団の土地八億四〇九八万七八四〇円(一平方メートル当たり二万〇九二五円)、建物一億九九五七万九八六〇円、機械器具八七四九万九〇〇〇円(合計一一億二八〇六万六〇〇〇円、ただし一〇〇〇円未満切捨て)、第二工場財団の土地六億五八三六万四二二〇円(一平方メートル当たり二万一八二五円)、建物一億〇〇三一万七四〇〇円、機械器具一〇一七万五〇〇〇円(合計七億六八八五万六〇〇〇円、ただし一〇〇〇円未満切捨て)であった。

(五)  大河内鑑定は、事業を継続するものとしての企業の価値を、その企業の財産から、どれだけの利益が上がるかということを基準にして評価しており、被告の考え方と一致するので、被告は、これを大いに参考にすべきものと判断した。

(六)  しかし、大河内鑑定の評価額をそのまま更生計画案における財産評価額として示せば、更生担保権者としての地位を害される債権者等の反対が十分に予想された。そこで被告は、更生会社の弁済力を考慮しながら、右評価額にできるだけ上乗せした評価額を、被告の評価額として示すことにした。

3  被告が参考にした大河内鑑定は、《証拠省略》によれば、以下のような考え方で導き出されたものであることが認められる。

(一)  会社更生法一七七条による財産評価は、更生計画立案の基本となるものであり、他方、同法一二四条の二による財産評価は担保の目的物の評価のためのもので、両者の目的に差異がある。しかし、いずれも事業を継続していくことを前提として評価をするもので、両者の評定基準は同じである。そこでまず、同法一七七条に基づく全体の財産評定をした上で、その一部をなす個別の固定資産である担保不動産の評価をすることになる。

(二)  事業を継続するものとしての企業の価値は、いったん倒産した会社が更生して事業を継続していくことを前提として評価すべきものであって、事業を解体し、人員を整理し、不動産を売却処分することを前提とする清算価値とはおのずから異なる。清算価値の方が事業継続価値よりも大きければ会社更生は無理である。本件の更生会社の場合、債権者らも協力的であったから、会社更生の見通しは十分であった。

(三)  事業継続価値を算定する場合、更生会社が将来収益を上げ、その収益をもって債権者に弁済できるかどうかの判定が重要であり、そのためには、更生会社の収益力を正確に把握することが不可欠の基礎となる。収益力に着目して企業の価値を求めるには、いわゆる収益還元法が一番適当である。そのほかに、補助的手法として、原価法や比較法による価額も求め、参考にする。

(四)  収益還元法とは、評価の対象たる更生会社が将来上げる各年の収益の現価の総和を求める方法で、この手法により求められる企業の資産の評価を収益価格という。収益価格は、各年の純収益と資本還元率が決まれば、純収益を資本還元率で除すことにより算出される。

(五)  今後の収益見通しにつき大河内は、被告作成の今後一〇年間の収支計画、過去の有価証券報告書、管財人就任後の企業実績等の資料を検討し、鑑定人としての見地から修正を加えた上で、収益見通しを立てた。

資本還元率は、投資の利回りと同義であり、長期貸付金利に、二・三パーセントの危険プレミアムを加えて、一二パーセント前後とする場合が多いことを前提とした。本件の更生会社では、収益を非常に保守的に認定し、安定度が高いため、危険プレミアムを一パーセントとし、資本還元率を一一パーセントとした。

(六)  企業全体の収益価格が算定されたら、今度は個別的な財産の再調達価格や処分価格を求め、全財産に対する個別財産の価値を比例的に割り付けることによって算出する。

大河内鑑定は以上の考え方にのっとったわけである。

五  ここで第一、第二工場財団の土地についての他の評価書を見るに、まず《証拠省略》は、不動産鑑定士石政金男作成の鑑定評価書である。石政は同鑑定書において、第一工場財団中の土地の建付正常価格を一平方メートル当たり三万六三〇〇円、全体で一四億五八九一万八〇〇〇円と評価し、第二工場財団中の土地の建付正常価格を一平方メートル当たり三万七四三〇円、全体で一一億二九〇九万六〇〇〇円と評価した。価格時点は、本件更生手続開始の昭和五一年四月一六日である。以上が同書証によって認められる。

次に《証拠省略》は、日本信託銀行(株)不動産部不動産鑑定士花塚一郎作成の鑑定評価書である。花塚は同鑑定書において、第一工場財団全体を二二億九一八六万円、うち土地価格を一平方メートル当たり四万円、土地全体で一六億六九〇〇円と評価し、また第二工場財団全体を一六億七四四九万円、うち土地価格を一平方メートル当たり三万九六〇〇円、土地全体で一一億九四五〇万円と評価した。同鑑定書における価格時点は昭和五〇年二月七日であり、日本信託銀行(株)が加藤車体工業(株)から担保提供を受けるについて、担保余力を把握するために同鑑定書が作成された。以上が同書証によって認められる。

以上の石政鑑定及び花塚鑑定は、不動産鑑定評価基準にいう比較方式によっているものであることが前記各書証から明らかである。

その結果、右比較方式のみによって算出された第一、第二工場財団の土地価格と、主として収益還元法によって算出された前叙大河内鑑定に係る同土地の価格との間には、大きな隔たりがあることになる。(大河内鑑定においては、収益還元法のみならず比較法式によって評価した右各土地の処分価格も検討した上、後者の価格も収益還元法によって得られた価格と大差のなかったとされたことが《証拠省略》によって認められるが、大河内鑑定における各土地の右処分価格については、前記石政鑑定及び花塚鑑定に照らして直ちに採用することができない。)

六  そこで価格評価算定基準の一つである収益還元法について検討してみる。

まず、昭和四二年の会社更生法の改正により管財人による財産評定については、会社の事業を継続するものとして評価すべきものと定められ、継続企業価値で評価することとされたが、その趣旨は企業財産を解体することなく、一括して、継続可能な状態において評定した価値(ゴーイング・コンサーン・ヴァリュー)、すなわち、企業の継続を前提とし、各個の財産は、これを企業の中に組み込まれた有機的組織体の一部として評定した価値を指すと解されるところである。

もっとも、企業継続を前提として、財産の評定をする場合の具体的手法については、法は何ら規定していないが、そのうちの一つの評価方法が、前記大河内鑑定が主として採用した収益還元法であって、その手法は前判示のとおりである。

本件で問題となる会社更生法一二四条の二に規定する担保権目的の価額も、前記ゴーイング・コンサーン・ヴァリューで評価されるべきであり、清算価額あるいは一般市場における取得価額ではないことは明らかである。右条文の規定を推し測ると、右に見た手法による収益還元法は、同法条における担保権目的の価額の算定に当たり、最も重要であり、かつ必要欠くべからざるものであるということができる。

しかしながら一般に、いったん不渡手形を出す直前に至るなど、破たん状態に陥った更生会社にあっては、更生手続開始時に更生会社の将来の平均利益を予測し算定することが困難であることは否めない。けだし更生手続開始時においては、更生計画案も立てられておらず、かつ更生計画が可決・認可される前の段階であるから、その将来にわたる営業活動の正確な予測を把握し難いからである。もっとも、価格時点を更生手続開始の時としつつも、評価を行うのを、実際は更生計画作成に近い時点にすることによって将来の平均利益をある程度予測することは可能であるが、破たん状態から回復できていない状態にある中での平均利益の予測はなお困難な側面があるといわねばならない。

しかも収益還元価額を算出するもう一つの基礎数値である資本還元率については、一般に八パーセントないし一〇パーセントが適当であると唱えられていたりする一方で、大河内鑑定のように、下請加工業、特に大企業の専属的下請の場合は、企業間競争のしわ寄せを免れ得ないので、資本還元率を多少高く査定せざるを得ないとの見解もある。このように、資本還元率が企業の業種、特質に応じて異ならざるを得ない反面、さきに見たように更生手続開始時においては、更生計画が確定する前であるから、更生会社の業種、特質もまた確定されていないのであって、資本還元率も、未確定にすぎない企業の業種、特質に応じた一応の予測に基づいたものにとどまらざるを得ない。

このように収益還元法を用いるに当たっては、不確定な要素を多少なりとも有する数値を基礎にしなければならないのであるから、会社更生法一七七条、そして本件にあっては同法一二四条の二における財産評定をするには、収益還元法によって吟味しつつも、これのみによることなく、他の評価方法も考慮しなければならないというべきである。

しかして、土地についての他の評価方式である比較方式は、異常に値上がりする土地価格をそのまま持ち込むことになる点において妥当でなく、このように異常に値上がりする土地の場合には、収益還元法によって評価すべきであると考えられないではない。しかしながら、《証拠省略》の花塚鑑定書は、本件更生手続開始より約一年前の昭和五〇年二月七日を価格時点とするものであるが、《証拠省略》の石政鑑定書における更生手続開始時の評価額よりも、一平方メートル当たりの土地の価格が高く評価されている。そして第一工場財団について、右昭和五〇年二月七日より以降に担保権の設定を受けた者としては、原告のみならず、第九順位の商工中金、第一〇順位のいすゞ自動車(株)及び第一一順位の三菱自動車工業(株)も含まれ、第二工場財団について右時点以降に担保権の設定を受けた者としては、原告の外、第七順位の三菱自動車工業(株)及び右時点の直近であるが昭和四九年一二月二七日設定による日本信託銀行(株)も含まれるのである(これらの事実は《証拠省略》によって認められる。)。

したがって本件において、原告外数社の担保権者が担保権の設定を受けた後に、土地が異常に値上がりしたという事情はなかったというべきであるから、第一、第二工場財団に係る土地の評価において、比較方式を排除すべきものとする事情はないといわなければならない。

七  そこで翻ってみるに、前判示のように、主として収益還元法によって算出された第一、第二工場財団の土地価格は、比較方式によって算出された同土地価格を大幅に下回っているのである。そうすると、主として収益還元法によって得られた土地価格を、そのまま会社更生法一二四条の二に規定する担保目的物の価格評定額と認定するのは相当でないといわねばならない。

そして他方、同法条に規定する担保の目的物の価格が、清算価額あるいは一般市場における取得価額ではないことも前判示のとおりであるから、比較方式によって取引正常価格として算出された土地価格をもって、直ちに同法条に規定する担保目的物の価格と認めることも当を得ない。前記石政鑑定及び花塚鑑定が取引正常価格を評価したことは、前に判示したところから明らかであり、右に見たところからすると、右鑑定評価額をそのまま担保目的物の価格と認めることはできないというべきである。担保権の場合、最終的には競売手続によって換価が行われるものであって、このことからしても、取引正常価格をそのまま担保目的物の価格と認めることができないといわざるを得ない。

八  以上を総合して考えると、今日、財産評定一般の決定的手段として通用すべき特定の方法を見いだし難い上、それぞれ長短得失を免れないということができる。結局、財産評定、あるいは担保権目的物の評定の認定に際しては、財産の種類に応じて、各方法による評価額を総合的に検討した上で、適正公平な継続企業価値を把握する必要があるというべきである。

なお、各方法による評価額を踏まえて、以下の判断をする前提として付言するに、原告は、大河内鑑定における収益還元法で採用された予想収益額等の基礎数値が不合理なものであると主張し、《証拠省略》中には、右主張に沿う部分があるが、右主張・供述部分は直ちに採用することができないというべきである。

九  以上判示したところを踏まえて、まず土地の価格について判断するに、主として収益還元法を採用した大河内鑑定並びに比較方式を採用した石政・花塚鑑定の土地の評価額を総合しつつ、その適正公平な継続企業価値について考えると、第一工場財団の土地については、大河内鑑定の評価額である一平方メートル当たり二万〇九二五円・合計八億四〇九八万七八四〇円と、石政・花塚鑑定のうち本件更生手続開始時の評価をした石政鑑定の評価額である一平方メートル当たり三万六三〇〇円・合計一四億五八九一万八〇〇〇円との中間値である一平方メートル当たり二万八六一二円・合計一一億四九九五万二九二〇円をもって、その評定価格と認めるのが相当である。そして第二工場財団の土地についても、大河内鑑定の評価額である一平方メートル当たり二万一八二五円・合計六億五八三六万四二二〇円と、石政鑑定の評価額である一平方メートル当たり三万七四三〇円・合計一一億二九〇九万六〇〇〇円との中間値である一平方メートル当たり二万九六二七円・合計八億九三七三万〇一一〇円をもって、その評定価格と認めるのが相当である。《証拠判断省略》

右認定の価格はいずれも、取引正常価格である石政鑑定の評価額に対し約八〇パーセントに相当する額であって、一般的な競売手続による換価の額の取引正常価格に対する比率にほぼ匹敵するものということができるから、このことも、右認定に係る評定額が相当なものであることを裏付けるものである。

一〇  次に、両工場財団中の建物及び機械器具の価格について判断する。

《証拠省略》によると、前掲の花塚鑑定は、第一工場財団の建物を二億九九〇四万円、機械器具を三億八五九二万円と評価し、第二工場財団の建物を三億一七二〇万円、機械器具を一億六二七九万円と評価したことが認められる。価格時点は前同様、昭和五〇年二月七日であり、評価の方法は、機械器具については特に専門家の意見も徴して行ったとのみ記載されるにとどまるが、建物については、再調達価格を求め、これに物理的、機能的、経済的減価の程度を総合的に把握して減価修正を行うというものであったことが右書証によって認められる。

他方建物及び機械器具についての大河内鑑定における評価額は、前記四2(四)において判示したとおりであり、主として収益還元法に基づくものであることも前判示のとおりである。

ところで、本件建物及び機械器具は、工場財団を組成するものであり、工場財団に組み込まれることとによって、加藤車体工業(株)の収益を生み出してきたものであり、《証拠省略》によると、更生計画の中でも更生会社の収益を生み出すものとされていることが認められる。そして、右建物及び機械器具は、加藤車体工業(株)の営業目的であるトラックボディー製造の目的で建築され設置されたこと、及びトラックボディーメーカーは極めて限定されてしか存在しないことが弁論の全趣旨から明らかであるから、そのままの状態で処分換価することは容易でないことが推認される。したがって、会社更生法一二四条の二の評定に当たり、本件建物及び機械器具について再調達価格によって評価することは原則として考えられないといわざるを得ず、収益還元法によって得られた評価額をもって右評定額と認めるべきである。

しかして、被告が評価した建物と機械器具の価格は前記四1の冒頭で判示したとおりであって、各工場財団ごとの建物と機械器具の合計額は、主として収益還元法に基づいて評価した大河内鑑定の価格を上回るものである。そうすると、建物と機械器具については、被告の評価額をもって、会社更生法一二四条の二の評定価格と認めるのが相当である。《証拠判断省略》

一一  以上の判示によると、第一工場財団全体の評定価格は一四億四六七二万九六六一円、第二工場財団全体の評定価格は一〇億〇九八二万四六五五円となる。

一二  更生手続開始当時第一、第二工場財団に設定されていた担保権についてみるに、《証拠省略》によると、以下の事実を認めることができる。

1  第一工場財団には次の担保権が設定されている。

第一順位

根抵当権者 (株)駿河銀行

元本極度額 一億五〇〇〇万円

確定債権額 一億六〇六八万五九四九円

ただし、第二工場財団についても第一順位の根抵当権がある。

(確定債権額を九で判示した評定価格の比率で財団ごとに割り付けると、第一工場財団についての被担保債権額は九四六三万二一九五円である。)

第二順位

根抵当権者 (株)太陽神戸銀行

元本極度額 一億〇二〇〇万円

確定債権額 八〇〇五万六〇七四円

第三順位

根抵当権者 商工組合中央金庫

元本極度額 五億円

確定債権額 六億〇四六八万二一一九円

ただし、届出番号二五四七―一に係るもの。第二工場財団についても第三順位の根抵当権がある。

(確定債権額を第一順位の場合の割付けと同様に工場財団ごとにに割り付けるが、第二工場財団に対する計算上の割付額が同財団についての根抵当権極度額一億五〇〇〇万円を超過するので、同財団に対する割付額を一億五〇〇〇万円とし、残額四億五四六八万二一一九円が第一工場財団についての割付被担保債権額となる。)

第四順位

抵当権者 日本生命保険(相)

当初の債権額 一億五〇〇〇万円

確定債権額 一億三〇七〇万三三四二円

ただし、確定債権額のうち第四順位被担保分。

第五順位

抵当権者 三菱自動車工業(株)

当初の債権額 二億円

確定権債額 七三〇一万三七八八円

ただし、確定債権額のうち第五順位被担保分。

第六順位

抵当権者 公害防止事業団

当初の債権額 七一〇〇万円

確定債権額 五五一七万七二七一円

第七順位

抵当権者 日本生命保険(相)

当初の債権額 一億五〇〇〇万円

確定債権額 一億五一三四万〇七一二円

ただし、確定債権額のうち第七順位被担保分。第二工場財団の第四順位と共同担保。

(確定債権額を第一順位の場合の割付けと同様に工場財団ごとに割り付けると、第一工場財団についての被担保債権額は八九一二万八五三八円となる。)

第八順位

根抵当権者 (株)第一勧業銀行

極度額 一億円

確定債権額 六八九九万四六四七円

ただし、第二工場財団の第五順位と共同担保。

(前同様に割り付けると、第一工場財団についての被担保債権額は四〇六三万二七六八円となる。)

第九順位

根抵当権者 商工組合中央金庫

極度額 一億五〇〇〇万円

確定債権額 一億五〇〇〇万円

ただし、届出番号二五四六―一に係るもの。

第一〇順位

抵当権者 いすゞ自動車(株)

当初の債権額 四億円

確定債権額 二億七三七五万八六八六円

第一一順位

抵当権者 三菱自動車工業(株)

当初の債権額 三億円

確定債権額 一億六六九〇万九九七七円

ただし、確定債権額のうち第一一順位被担保分。第二工場財団及び福島県安達郡白沢村長屋字菖蒲田一番五、同番八、同番九、同番一〇、同番一一、同村字平三二番三、同番六、同番七、同番八、神奈川県海老名市柏ヶ谷字滝本三三〇番二の各土地が共同担保となっている。さらに代位弁済により、(株)静岡銀行が有していた沼津工場についての根抵当権を取得した。

(《証拠省略》によると、福島県白沢村の右各土地及び海老名市の右土地についての被告の評定額合計が五四九三万五〇〇〇円、沼津工場についての被告の評定額が四億七七三〇万二〇〇〇円であることが認められる。これらと九で判示した各工場財団の価格を基に、三菱自動車工業(株)の確定債権額を第一工場財団に割り付けると、以上価格合計二九億八八七九万一三一六円のうち、第一工場財団の価格相当分である八〇七九万三〇六六円が同財団についての被担保債権額となる。)

第一二順位

原告の本件担保権。

2  第二工場財団には次の担保権が設定されている。

第一順位

根抵当権者 (株)駿河銀行

元本極度額 一億円

確定債権額 一億六〇六八万五九四九円

ただし、第一工場財団についても第一順位の根抵当権がある。

(前判示の第一工場財団割付額を控除すると、第二工場財団についての被担保債権額は六六〇五万三七五四円となる。)

第二順位

抵当権者 (株)日本興業銀行

当初の債権額 七億五〇〇〇万円

確定債権額 四億八二〇三万七二九六円

第三順位

根抵当権者 商工組合中央金庫

極度額 一億五〇〇〇万円

確定債権額 六億〇四六八万二一一九円

ただし、届出番号二五四七―一に係るもの。第一工場財団についても第三順位の根抵当権がある。

(前判示の第一工場財団割付額を控除すると、第二工場財団についての被担保債権額は一億五〇〇〇万円となる。)

第四順位

抵当権者 日本生命保険(相)

当初の債権額 一億五〇〇〇万円

確定債権額 一億五一三四万〇七一二円

ただし、確定債権額のうち第四順位被担保分。第一工場財団の第七順位と共同担保。

(前判示の第一工場財団割付額を控除すると、第二工場財団についての被担保債権額は六二二一万二一七四円となる。)

第五順位

根抵当権者 (株)第一勧業銀行

極度額 一億円

確定債権額 六八九九万四六四七円

ただし、第一工場財団の第八順位と共同担保。

(前判示の第一工場財団割付額を控除すると、第二工場財団についての被担保債権額は二八三六万一八七九円となる。)

第六順位

抵当権者 日本信託銀行(株)

当初の債権額 一億円

確定債権額 五五六九万八三七〇円

ただし、確定債権額のうち第六順位被担保分。

第七順位

抵当権者 三菱自動車工業(株)

当初の債権額 三億円

確定債権額 一億六六九〇万九九七七円

ただし、確定債権額のうち第七順位被担保分。共同抵当等については、第一工場財団の第一一順位と同じ。

(第一工場財団における第一一順位の割付方法と同様の方法で第二工場財団に割り付けると、第二工場財団についての被担保債権額は五六三九万三九七〇円となる。)

第八順位

原告の本件担保権。

以上の事実を認めることができる。

以上認定の各事実によると、第一工場財団についての原告より先順位被担保債権額の合計額は一五億二二五七万七八四七円となり、第二工場財団についての右合計額は九億〇〇七五万七四四三円となる。

一三  そうすると、第一工場財団については、その評価額から先順位被担保債権を控除すると、第一二順位の担保権者である原告に対する担保価値は存しないが、第二工場財団については、評定価格である一〇億〇九八二万四六五五円から先順位被担保債権額合計九億〇〇七五万七四四三円を控除した一億〇九〇六万七二一二円の部分において、原告は担保権価格を把握しているものということができる。

そして前に判示したところによると、原告の加藤車体工業(株)に対する売掛金債権と約束手形金債権の合計金二億六八〇〇万一八三一円の債権は、第二工場財団に対する根抵当権によって担保されるものである。したがって、右被担保債権のうち、前記一億〇九〇六万七二一二円の範囲で、原告は更生担保権者として更生手続における権利を有するものということができる。また右被担保債権は元本債権であるから、同額が更生担保権者としての議決権の額ということになる。

一四  してみれば、原告の本訴請求は主文一項の限度で正当であるから、この部分を認容すべきであるが、その余は失当であって棄却を免れない。訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 中橋正夫 裁判官 塩月秀平 生島恭子)

<以下省略>

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